癌細胞がなくなったとの吉報を受け、タラを病院から連れて帰った。
渋滞に巻き込まれて1時間近く掛かってやっと家に辿りついた。
「タラ、お疲れ様。」
キャリーバッグを床に置いて上の蓋を開けた。
「それにしても、ほんとに良かったね、タラ...」
あれ?いつもなら飛び出るのになかなか出ようとしない。
へんだな。
横のジッパーを空けた。
ゆっくり出た。
え?
うそ。
え?
どうしたの?
え?え?
左の後ろ足がまるで痺れてでもいるかのように、ツルツルとフローリングの上で内側に滑って歩けない。そしてもつれて尻餅。
他の3本の足では歩けている。
左の後ろ足がもつれて尻餅をつく。
また立ち上がってはその足を使うたびに尻餅をつく。
途中でその場に転んだままで数秒間休んではまた尻餅をつくのを繰り返しながらも自分の餌の場所になんとか辿りついた。
ど、どうしよう!一体どうしちゃったんだろう。
すぐお医者さんに電話しなくちゃ。
でもお腹は空いているのね。
餌を上げたら一生懸命、すごい勢いで食べている。
左足の様子がおかしいので食べながらも、とても気になって姿勢を何度も変えては食べ、食べては姿勢を変えている。
とにかく納得するまで食べさせよう。
病院に電話したら、また病院に連れてくるように言われた。
自分も体調不良でふらふらの上に、この事態に動揺しながら、また往復1時間以上の車の道のりをちゃんと運転できるか不安だった。
兄も旅行中で近くにミッションを運転できる友達もいない。
でもきっと毎日すごく大変な思いをして家族の介護に頑張っている人のドキュメンタリー番組の画像を思い出した。
そう、こんなことでへこたれてる場合ではない。
でも病院に戻るということはタラにまたストレスがかかっちゃう。
あー、でもどうしちゃったんだろう。
麻酔で神経がやられちゃったのかなぁ。
誰かが何かをしちゃったのかなぁ。
タラも困惑しているのがよくわかる。
私の顔を見上げた表情でわかる。
でも痛みはないようだ。でも犬や猫は痛みを上手に隠すからなぁ。
一生こんなだったらどうしよう。
やっと癌が治ったと思ったのに。
愛子、落ち着くのよ。生死に関わる事態じゃないんだから、まだこの先どうなるか今の時点では分からないんだから。
食事が済んで、何度も転びながら、いつも落ち着く座布団に寝そべった。
少し気を落ち着かせてあげるためにもピアノを弾いた。
暫くじっとしていたけれど、私のほうに歩いてきては転んでいる。
動揺してピアノが弾けない。
「タラぁ、どうしちゃったのぉ。何があったのぉ?病院で何かされた?」
見当もつかない。
とにかく病院に連れて行った。
****************
救急のときは係りの人がすぐ病院の治療室に連れて行く。
診察室で15分ほど待たされたのち、さっきの係りの人がノックして部屋に入ってきた。
「随分抵抗してしまうタイプの猫ちゃんのようですが、(飼い主の)あなたから(タラの)歩く様子を獣医に見せることは可能ですか?」
だから生死に関わる状況じゃないんだから、余計なことしないでさっさとそのまま診察室に通してくれればいいのに。
「もちろんです。」
キャリーバッグに入ったタラを連れて、当直の若い女性の獣医さんが部屋に入ってきた。
タラをバッグから取り出して様子を見せる。
「問題が見られるのは左の後ろ足だけですか?」
はああああ?それはあなたが診断することでしょ?っていうか、見ればわかるでしょ?
「はい、そうです。」
「今日、キモセラピーでいらしていたのですね?」
「はい、そうです。」
「担当医はDr.デニス・ベイリーで間違いないですね?」
「はい、間違いありません。」
「では、Dr.ベイリーに連絡をとってみます。」
あぁぁぁ、良かった。この先生じゃ話になんないわ。
Dr.ベイリーとの会話の結果、何が原因でそうなったのか考え付かない。今日はとりあえず家に連れて帰ってゆっくり休ませて、注意して様子をみてあげるように、そして明日の朝電話を下さいとのことだった。
少なくともDr.ベイリーに話が行ったことは良かったと思う。
「神様、どうか心の平穏を与えてください。
この状況下で最良の判断と対応ができるよう、お力を下さい。」
帰宅したときには11時近くだった。
私はへとへとだった。微熱もあった。
でもタラの辛さを考えたらそれも大したことではない。
とにかく今晩ゆっくり休んで、明日からに備えなくては。
あれ?今日、最初に家に帰ってきたときより、すこーしだけ歩けるようになってる?
いや、そうでありたいと思う私の願望で、そう見えるだけ?
または、タラの状態を見慣れてきたからそう見えるだけ?
ま、とにかく寝よう。
タラ、かわいそうにねぇ。
(つづく)
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